シカゴの1976年のヒット曲If You Leave Me Now(愛ある別れ)。
この頃からシカゴ、ボズ・スキャッグス、デビッド・フォスターがいたエア・プレイ等のAOR(Adult Oriented Rock)サウンドが流行りだしたと思います。AORは複雑なコード進行、緻密なアレンジ、卓越した演奏テクニックが特徴的です。僕も色々勉強させてもらいました。
さて、この曲ではAORとしては凝ったアレンジはしていませんが、トライアドを上手く使い、コード進行で上手く転調感を出しています。
曲構成はAA'BB'形式、Aセクションで4分の2拍子を効果的に使っています。通常、拍子とは周期を感じさせるためにあるもの。
しかし、ここでは、1小節だけ2拍子に変化させることにより、曲にアクセントを付けています。また、このポイントにトライアドのコード進行が入ることが見逃せません。
ここでのコードF#は本来V7/I(Key of B)でキーのドミナント・コードF#7であるのですが、トライアドにする事により一時的に転調(Key of F#のトニック・コード)した感じを与えます。もちろん、その小節の手前のII-Vパターンもこの効果をサポートしています。
ほんの一瞬の調性の揺らぎなのですが、普通の曲とは違うアクセントが出ています。
Bセクション、最初のコードの基となるスケールはEミクソリディアン、本来IV7(Key of B)コードです。このコードを分数コード化(このような分数・コードの事をハイブリッド・コードと私は呼んでいます)することによりサウンドに変化を付けます。次に現れるEm7というコードは次のコードAm/Eと連動しKey of Emの調性を提示しています。また、このAm/Eは次のEとのつながりでKey of Eのサブドミナント・マイナー・コードのサウンド、と調性が変って行きます。
コード進行とメロディから考えられるスケール
コード・サウンド、聴こえてくるスケールから考えるとBセクションの前半はキーがEに転調したと考え、モーダル・インターチェンジ・コードを使いEメジャー、Eマイナーのキーを行き来していると私は考えます。その考え方から、前半のペダル・ポイントE音は、Key
of Eのトニック・ペダルと考えられます。
1回目Bセクションの後半はG#m7をピボット・コードとしてKey of Bに戻って行きます。繰り返し前のコード進行は洒落ています。このII-Vパターンは通常VIm7へ進行するパターンですが、3,4拍目のドミナント7thコードをアプローチ・コードとしてBm/E(この分数コードはE7sus4のサウンドに非常に近い)につなげています。このこのII-Vパターンマイナー色が強いパターンなので、曲のアクセントとして効果的になっています。
A#m7(b5)/D#7というII-Vパターンは通常G#m7へ進行する。
D#7をアプローチ・コードとして半音上のコード(E7sus4)に進行させる。
Bセクション後半には、ポップスやジャズでよく使われる、サブドミナントからサブドミナント・マイナーへのコード・パターンが出てきます。一番良く現れるのがIVからIVmですが、この曲のようにサブドミナント・コードIIm7からIIIm7というパッシング・コードを介してIVmに進行するパターンも多く出てきます。よくジャズのイントロなどにもこのIIm7から半音進行でIVm7に進行しまたIIm7に戻ってくるパターンがあり、ポップスではスティビー・ワンダーのLatelyやチャカ・カーンのI'm every Woman等にもこのパターンは見られます。